抜け落ちた風景 その5
アナウンスで[次は◯◯城] 「降りるわよ」
平日にもかかわらず、花見客で城内は、思ったより
人出があった。
石段を登り、石垣の上にでると、
眼下は、ピンクの絨毯を敷き詰めたようだった、
思わず息を飲んだ、
「うぁー、綺麗ねぇ」と、彼女が
「ねぇ、あそこに座ろうか?」
「気持ちイイねー」
「こんなに、咲いてるとは 思わなかったわ」
もう一度 「キレイ」
僕は君の方が綺麗だよ、なんて思いながら
彼女を 見ていた。すると、
「ね、どうしたの?」
「ん、何が?」
「ウウン、いい、」
彼女が、いつもの笑顔でこちらを見ていた。
「ねぇー」 「お腹が空いてない?」
「空いたー」
「お弁当、食べようか?」
「作ってきたの?」
「そ、ガンバったんだから〜」
蓋を開けると、卵焼き、唐揚げ、煮物など
弁当に所狭しと並べて入れてあり
「すごい」
「でしょー」
おかずを頬張り、おにぎりに手を伸ばしてた
「すごく、美味しい!」
「ホント!うれしい〜!」
二人でいる楽しい時は、何故か、あっという間に
過ぎて行く、もっと一緒に居たいと 思うが
遅くなると、家に迷惑をかけるので、
「もう、帰ろうか?」
「うん、そうね、」
バスの、後部座席に座って
「私の方が、さきに降りるよ」と、彼女が言った。
「うん」
「あなた、降りる所はわかる?」
「うん、大丈夫、」
市内に向かって走る、バスは 空いていて やがて
見慣れた景色が見えてくる。
バス停の、アナウンスがされ、彼女が窓側の
ボタンを押そうと、僕のほうに寄って腕を
伸ばし押した。
ピーと鳴った時に、僕の耳元に唇を寄せ
小さな声で呟いた。
「好きよ、 耕ちゃん」
僕は、彼女の手をギュッと握りしめ、頷いた。
バスから降りて、見えなくなるまで
後ろを振り返ってた。