yowoichi43’s diary

ちょっとした小説と、健康について

抜け落ちた風景 その9

年が明け、街も店も、落ち着きを取り戻してきた。

一階レジに内線電話が掛かってきた、

[山田さんは、いらっしゃいますか?]慶乃が出た、

[はい、私ですけれど、]

[総務の綾間です、少し  お話がしたいのですけれど、

  お時間、よろしいでしょうか?]

[もう、お昼の休憩に入りますから、いいですよ、]

[では、ロマンでお待ちしてます]

 

「コーヒーもらえますか?」と、綾間が言って

「私も下さい」と慶乃も注文した、

「すいません、および立てしまして、不躾な事を、

    お伺いしても、よろしいでしょうか?」

「なんでしょうか?」

「実は、長澤さんと、お付き合いをされて

    いらっしゃるのでしょうか?」

「え?!」

「いえ、この前、デパートでお二人を、

    お見受けしたものですから」

「あー、あれ、」少し、慶乃は考え込んで、

「長澤くんがまだ、こちらに、不慣れなもの

   だから、店長に面倒見てと言われたの、で、

   私とは、年も離れてますし、まぁ、弟みたいな

    ものかなぁ、」

「そうなんですか〜、私、奥手なんです、

     こういうことに、

    慣れていなくて、もしお付き合いされていたら

    どうしようかと、心配してましたの、

    でも、あー、良かった〜、」

急に、表情がぱっと明るくなり、嬉しそうであった

「だから、何も  心配は要らないよ、」

そう言ったものの、慶乃の横顔は、少し寂しそうで

「もう、いい?仕事に帰るね、」

「あー、ごめんなさい、ありがとうございました」

彼女が、深々と礼をして、見送った。

そんな事があり、幾日かたった、ある日、

慶乃が、ロマンでお昼を済ませコーヒーを

飲んでると、

マスターと宮崎さんが、カウンター越しに、

話をしていた、

時折、耕太郎と聞こえたので、耳を傾けていると、

「へー、耕太郎もやったじゃん、社長令嬢から

   交際を申し込まれたって?」

マスターが「そう、この前にね、そこで

    令嬢と会って、言っていたよ」

「いいなぁ、彼女、一人娘だろ?将来は

    社長候補か、羨ましいなぁ」

慶乃は、その話を聞きながら、下を向いて、

考えごとをして、静かに出て行った。

f:id:yowoichi43:20190528164543j:image