yowoichi43’s diary

ちょっとした小説と、健康について

抜け落ちた風景 その18

  『◯◯〜、お疲れ様でした〜

お降りの際は、お忘れ物のなきよう、ご注意下さい

お出口、右側になりま〜す』

この地をに、来るのは、慶乃の葬式から、

初めてであった。

あれから随分と、時間が過ぎてるのに、僕の

中では、昨日の事のように見える。

駅前で、タクシーを拾い、行先を告げた、

商店街は、前ほどの賑わいは無く、閑散としてた、

ロマンは、変わりなく営業を、していたので

ドアを開けると、「いらっしゃいませ」

 「お!耕ちゃん!久しぶり、いつ来たの?」

 「今着きました。」

「そう、コーヒーでいい?」頷くと、続けて

「ここら辺も、寂しくなったでしょ?お店が

    が無くなって、どれくらい経つかな〜?

    あ、そういえば、宮崎さん、近くにいるよ

    もう、来る頃だけど。」

ドアが開くと、懐かしい顔があった、

「いらっしゃいませ」

「おー、耕太郎ひさしぶりだなぁ

    元気にしてたか?もう会社も無くなったよ、

    俺は、運良く近くの所に、行けてね、

    店のスタッフは、バラバラでね、もう何処に

     いるのか、わからないよ」

「そうなんですか」

「何、弁護士をしてるんだって?頑張ったなぁ」

いえ、と頭を振ると、

「ところで、向こうの家には行ったの?」

「今から、行こうと思っているのです」

「そうか」と、遠く見ていた、

「じゃ、マスターまた、」

「ん、帰りによりなよ」

僕は軽く、会釈して、店を後にした。

  タクシーは使わず、バスで行くことにした、

途中、慶乃との思い出が、次々と浮かんでくる。

バスの中で『耕ちゃん、好きよ』と最初に言って

くれてから、どれだけ経つのだろう、

涙が出そうになった時に『◯◯町」と

アナウンスがあり、降りて行く、事故はここで、

起きた、僕は、伏し目がちに、通り過ぎて

慶乃の家まで、ゆっくりと歩いて行った、

玄関を開け、インターホンを押すと、中から返事が

あり、扉が開いた。

「あら?耕太郎くん、

    お父さん!耕太郎くん!

    さ、さ、上がって」

「元気にしてたの?」

「はい、ご無沙汰してました」

「お母さん、亡くなったんだってねー」

「ええ、急でした」  「そう、、」

「どう?もう整理はついたか?」お父さんが、

     聞いてきた。

f:id:yowoichi43:20190605235829j:image

奥にある、仏間に通された、そこには、

笑顔の慶乃と二人で撮った、ウェディングの

写真が置いてあった。

慶乃の、笑顔を見てると、急に霞んで見えた、

君はいつまでも、変わらないね?

自然と涙が出て、やがて嗚咽に変わった、

僕が泣き止むまで、二人とも、静かに

見守ってくれていた、

お父さんが、僕の背中を、さすりながら

「もう、いいんだよ」

「きみも、十分に苦しんだし」

「なぁ、かあさん、」

「ええ」

「最近はね、慶乃も夢に出てこなくなったしなぁ」

「それに僕も、定年でね、愛美も嫁に出したし

    あとは、母さんと、のんびり過ごそうかと、

    思っているんだよ」

「だから、もう君も、一歩を踏み出さないと」

「そうよ、耕太郎くんも未だ、若いし、

   これからも、一杯、出会いがあるからね」

お父さんとお母さんさんが、言うことを

頷きながら、僕は聞いていた。

すると、耳元で不意に

『耕ちゃん、ありがとう』の、声が聞こえた

気がした。

また、伺いますと言い、慶乃の家を後にして、

タクシーでお城に、行ってもらった。

石段を上がり、石垣の上に立つと、思い出が

昨日の事のように、蘇り、暫くは佇んでいた。

僕は果たして、このまま進む事が、出来るのだろうか?忘れる事のできない、この事を、断ち切れと

いうのだろうか?答えは見つからない。

 

暫くしてると、下から話し声が、聞こえてきた。

すると、大きな声で誰かが呼んでる、

「先生!先生!耕太郎先生じゃありませんか?」

「え!なんでここに、君がいるんだ?

「あれ?言ってませんでしたっけ?」

「此処、私の故郷なんですよ〜」

「そう、しかし偶然だね〜」

「本当に、ビックリしましたよ、石段を上がって

    来たら、耕太郎先生がいるんですもの」

「でも、何故?先生が此処に?」

「此処はね、若い時に住んでいたから、懐かしい

    と思ってね」

 そうなんですかと、彼女は、屈託の無い笑顔で

聞いてきた、

少し離れた所にいる、友達らしき二人組の

女の子が、頭を下げて

「ねぇ〜、ヨシノいくよ〜」と、言った、

僕は、一瞬「え!」と大きな声を出した。

「野上くん、君、ヨシノというのか?」

「あれ?先生は知らなかったですか?

   そうか、面接は由紀先生でしたものね」

「今更なんですけど、自己紹介しま〜す」

「私は、野上ヨシノといいます、ヨシはよろこぶ

    ノは乃木坂のノを書きます」

「先生、何もそんなに、驚かなくても」

「確かに、苗字みたいな、名前だとは言われます」

「いや!ゴメン、知り合いに同じ名前がいるもので」

「ところで、先生、いつお帰りになるのですか?」

「ん〜、もう用は済んだから、帰るつもりだ」

「そうなんですか、何時の電車ですか?」

時間を言うと、一緒だと言ってた。

「此処は、よく学生の頃に、遊びに来てたんですよ」

「知ってました?此処はデートスポットなんです

   とくに桜が咲く頃は多いんですよー」

「私、友達とちょっとしてから、駅に行きます、

   またね、先生」と言いながら、下りて行った。

僕は、皆に頭を下げ、ユックリと下りていくと

途中から涼しい風が吹いてきた。

石段を、一歩ずつ下りながら、もうここには

来ないかもしれないと思ってた。

不意に後ろから、風が吹き、

     「耕ちゃん!」呼ばれたような気がした。

後ろを振り返ると、石垣の上に慶乃の姿が見えた。

          「すきよ」

僕は、石垣の上を向き、小さな声で、

      「僕もだよ、慶乃」と、呟いた。

石垣の上は少しだけ、影になっていて、

風が吹いていた。

f:id:yowoichi43:20190605235852j:image

                               終わり