yowoichi43’s diary

ちょっとした小説と、健康について

抜け落ちた風景 その14

   ロマンに、お昼を食べに行くと、マスターが

「耕ちゃん!いつもの?」

「いえ、弁当があるんですよ〜」

「オッ、なになに、弁当を作ってもらってるの?」

「慶乃に、あまり無駄遣いをするなって、

    弁当を持って行きなさいと言われてます。」

「羨ましいなぁー、」

それから、しばらくしてから、僕の両親が

慶乃の家に、挨拶に来た。

振り袖姿を、僕は見惚れていたら、

「慶乃さん、綺麗ねー」と、お袋が言っていて、

少しはにかんだように、慶乃は下を向いていた。

挨拶と結納まで済まし、食事が終わったら、

両親は帰って行った。

その年の、クリスマスになる前、休みの朝

「ねぇ、耕ちゃん?」慶乃が聞いた、

「うん?どうしたの?」

「写真を撮りに行こうよ」

「ちゃんとした、スタジオで撮ろうよ〜」

「いいけど、どうしたの?」

「私ね、山田慶乃で撮りたいのよ」

「この名前で撮るのは、最後だしね」

「次撮るときは、長澤慶乃だからね」

「いいでしょう?」「いいよー」

スタジオに行き、予約してなくてもいいか聞くと

大丈夫という事だった。

貸衣装があったので、借りれるのか?聞いたら

前撮り用で置いてあるから、好きなのを

良いですよと言われた。

慶乃は、ウェディングドレスが着れると言い、

  耕ちゃんはモーニングを着て、撮ろうと言って

選んでいた。

胸のあいた、純白のドレスでビーズ刺繍のはいった

裾の広いのを選んだ。

「あのう、髪と着付けはどうしたら良いのですか?

「大丈夫ですよ、隣はウチの美容室だから、

    やってあげますよ」

僕は、少しだけライトブルーの服を、選んでもらい

着替えて、慶乃を待っていた。

しばらくしてから、奥からドレス姿の慶乃が

出てきた、

「いや〜、本当にお綺麗な方」

「やり甲斐があったわ〜」

美容師さんが、しきりに褒めるものだから

恐縮していた、

僕はというと、思わず見惚れていて、呼ばれて

返事をするのを忘れていた。

スタジオの中央に、案内され、色々と

ポーズを決めてた時に、

「すいません、少しだけ時間をもらってもいい

    ですか?」聞いたら

「あ、大丈夫ですよー」

「耕ちゃん、どうしたの?」

「慶乃、左手を出して」

長い手袋を外し、薬指に指輪をしてあげた。

「嬉しい」といいながら、スタジオのライトが

当たり光るのを、左手を伸ばして眺めていた、

そして、僕の方を向き、天使のような微笑みで

「ありがとう」

「それでは、撮ります!」

「花嫁さん、すいません、少し首を傾けて下さい!」

「花婿さん、もう少し左を向いて下さい!」

バッ!ストロボが光った、

「次ですね、花嫁さんは椅子に、掛けて下さい、

   少し衣装を直しますね」

裾を大きく広げ、僕はその横に立つと

「じゃ、カメラを見て下さい、」

そして、慶乃の一人だけの写真も撮ってもらい

「お疲れ様でした、終わりました、どうぞ

   着替えてもらってもいいですよ」

帰るときにスタジオの方が、

「すいません、今日の写真、お店に飾りたいのです   

    が、よろしいでしょうか?」

どうぞと言って、スタジオを後にした。

食事をしながら、将来のことを話し、店の

外に出ると、北風が冷たく吹いてた、

バス停に向かう時に、僕のコートのポケットに

慶乃が手を入れて、指を絡めて歩いて行った。

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