yowoichi43’s diary

ちょっとした小説と、健康について

抜け落ちた風景 その11

   門を慌ただしく開けて、チャイムを鳴らした、

はーい、と返事があり、母親が、

「あら?どうしたの」

僕は、息を切らしながら「すいません」

「慶乃は、上よ、」

「失礼します」

一気に、階段を駆け上がり、呼んだ!

「慶乃!  慶乃!」

部屋のドアが開いて、「どうしたの?」

「僕の話を聞いて!もうね、誰にも遠慮しなくても

     いいから!だから、僕と一緒になって!」

彼女は頷いていたが、

「でもね、耕ちゃん!あなたより歳も離れて

    上だし、もっと、年下の人を選んだ方がいいよ」

少し、涙声で、下向きに答えた、

「そんな事はないよ!僕は…僕は…

    君と居たいんだ、ずっと、一緒に歩きたいんだ」

「でもね、」

「僕の話を、聞いてよ!」

「僕は、慶乃と幸せになりたいんだ!

    だから、もう  離れないで!」

僕はそう言うと、思いっきり、抱きしめた。

「耕ちゃん!ありがとう!」

背中に手を回してくれた、

台所の方から、

「耕太郎くん、一緒に食事しよう」

「ありがとうございます、でも、一度、

    会社に帰らないと、」

「そう、だけどもう、こんな時間よ、

   電話入れたら?」

宮崎さんに、怒られ、自転車は明日持って、

来てもいいと言われた。

「今日はね、お父さんは残業で遅くなると

    言っているし、私が話をしておくからね」と

母親が、食器を出しながら言った、

「さ、耕太郎くん、座ってね」

「慶乃!愛美を呼んでちょうだい!」

 

日を改めて、僕は、慶乃の両親に挨拶に、伺った。

お父さんは、白髪が少し入って、黒縁の眼鏡で

その奥は、優しそうな目をしていた。

リビングのソファーに掛けて、お猪口に

お酒を注ぎながら、よく通る声で、聞いた。

耕太郎くん、慶乃でいいのか?と

何回となく聞いてきた。

「僕はね、耕太郎くん、慶乃は、もう

     嫁には行かないだろうと思って、

     諦めていたんだよ、」

「だから、嬉しくてな、頼むな、耕太郎くん」

「僕が、少し甘やかし過ぎたから、わがままに

    なってね、心配なんだよ、な、母さん?」

「そうなのよ、耕太郎くん、頼むわね。」

「今から、みっちりと花嫁修業をさせるから!」

「お母さん!」慶乃が、口を尖らせて言った。

「耕太郎くんの、ご両親の前で、恥ずかしい所は

    見せられないでしょう?」

「慶乃!いい?!」

「はい」

慶乃が、珍しく神妙な面持ちで、返事をした。

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