yowoichi43’s diary

ちょっとした小説と、健康について

抜け落ちた風景 その16

  僕はこれから、どうすればいいのだろう?

何を見ても、触れても、感情が湧かなかった。

故郷から、来ていた親父が「大丈夫か?」

声をかけてくれたが、何も言えなかった。

    「一度、かえるか?」

     「耕ちゃん、帰ろ、ね?」

      「兄ちゃん、そうしようよ」

 僕は、慶乃との思い出がある、この地は離れたく

無いが、でも此処に居ると、二人の思い出が

あり過ぎるから、余計に僕を苦しめた。

会社を退職する時、店長や宮崎さんが、休職でも

いいからと言ってくれたが、皆に迷惑が、

掛かるからと、退職することになり、そのまま

実家に帰る事にした。

家に居ても、何もせずというか、無気力に

ただ日々を、過ごしている、感じであった。

夜が怖くて、寝れずにいたが、いつのまにか、

疲れて、目を閉じると、自然と涙が出ていた。

昼も、夜もない様な感じで、まるで白昼夢の中を、

彷徨ってるみたいな、日々がつずいてた。

f:id:yowoichi43:20190605012948j:image

 暫くして、慶乃のお父さんが、訪ねて来た。

両親に「その節はお世話になり、ありがとう

               ございました。」

  「いえ、何も出来ずに、少しは落ち着かれましたか?」

 「ええ、そのつもりではいるのですが、中々、

    そういうわけには、家内が、酷く落ち込んでまし

     てね。」

  「そうですか、それは大変ですね」

  「ところで、耕太郎くんは?」

   「居ます、おい!耕太郎!」

    「奥に居ますから、どうぞお上り下さい」

では失礼しますと、部屋の前に来て

     「耕太郎くん、入るぞ」

    「大丈夫か?心配していたんだぞ」

  「はい、ありがとうございます」

  「実はな、この前に、慶乃の部屋を、少しは

    片ずけようとしたら、こういう物が出て来て、

    君に渡そうと、思ってな」

それは、封筒と、結婚招待状の、下書きで

封筒を、開くと、見覚えのある文字が、目に入った

結婚式の披露宴の、最後に読むはずだった、

両親への、感謝の言葉で、最後にこう綴られて居た

『耕ちゃん、私を選んでくれて、ありがとう、

   私は、本当に幸せです。

    幸せな家庭を、作ろうね、

    本当に、ありがとう。』

手紙の最後の方の、文字は滲んでいた、

僕は我慢をしていたが、嗚咽を漏らし、その場に

崩れ落ちた、お父さんが、肩をポン、ポンと叩いて

「じゃ」と、去って行った。

両親が

「泊まっていって下さい」と言ったが、

「すいません、仕事が立て込んでまして、

   これで失礼します」

「わざわざ、すいません、何のお構いもできません 

    で、お気をつけて!」

「ありがとうございます」と、深く礼をして、帰っ

て行った。

部屋に入って来た、親父が

「耕太郎、気持ちはわかるが、ずっと、そうしてる

   のか?どうするつもりなんだ」

「何も考えて、いない」

「しっかりしろよ!そんな事じゃ、慶乃さんも

   悲しむぞ!」

「何にもわかりゃしないのに!」

「バカヤロウ!」

お袋が割って入り「お父さん、ね、ね、」言いながら、部屋を出て行った。

  少しして、由紀が「お兄ちゃん、時間が、

あるんだったら、私と一緒に、勉強する?」

f:id:yowoichi43:20190605012958j:image