抜け落ちた風景 その17
由紀は、慶乃の事故を見てから、法学部を
目指す様になり、受験勉強中で、
「お兄ちゃん、やってみたら?」と勧めてくれた。
僕は渡された、参考書をやってみた、
やりだすと、没頭できて、してる間は、忘れることが出来た、とにかく、忘れるのじゃなく、
考えない様に、勉強に集中した、ただ、目を閉じて
寝ようと横になると、夢の中に、慶乃が現れる、
そして『耕ちゃん、』と呼ぶ声がして、その都度
目が覚めた。
何とか、試験も合格し、何年か後に、事務所も
構えることが出来た。
由紀も同じ道を歩いてくれ、事務所を助けてくれ
たので、なお一層、仕事に没頭した。
未だ、僕の中では、親孝行ができてないと思う内に
親父が他界し、今度はお袋が、逝ってしまった。
考えてみれば、あれからもう、18年も経ってるのか
早いものだ、慶乃のことは、いっときも忘れた事は無く、何か、いつも心に棘が、刺さってるみたいで、晴れたことは無かった。
お袋の49日が過ぎて、「お兄ちゃん、こっちも
少しは、落ち着いてきたから、慶乃さんの
ところに、行ってきたら?
あれ以来、一度も行ってないんでしょう?
今は、そう大きな案件も無いし、事務所は
私と、本間さん、上原さん、野上さんがいるしね
あ、野上さんは友達の、結婚式だと、言っていたわね、でも大丈夫だよ、いっといでよ」
迷っていたが、何時迄もこのままで、いいわけが
無く、行こうと決めた。
由紀の勧めもあり、車は置いて、電車で行く
事になった。